親の変化はゆっくりと、ある日突然現れます。
明確な答えや正解は存在しない親の「介護」について、誰もが通る道でありながら、当事者になると悩むことばかりです。気心の知れた親子だからこそ、介護の場面で今まで通りに本音で話してぶつかり合ってしまうことも。

今回は特に介護の中でも、認知症が進んできた親に対する効果的な声かけやコミュニケーションの取り方について紹介します。

1.親の介護・家族が気づく変化

親が高齢になるにつれて様々な持病や、足腰が弱ってきたなど身体的な悩みが増え、介助の必要性が高まります。同時に認知症の症状が現れて、介護が必要になってくる方も多いでしょう。
高齢になればまず「物忘れ」が目立つようになりますが、次第に昔のことはしっかり覚えているのに、今日、昨日といった最近のことを忘れるようになってきます。これが認知症の始まりのサインです。

  • 日付や曜日を忘れてしまう
  • 薬の飲み忘れが目立つ
  • テレビのリモコンなど必要なものが見つけられない
  • ご飯を食べたのにご飯はまだかと聞く
  • 同じ話を何度も繰り返す

このような症状があらわれてきた時に、親の介護ではどのような声かけをするとよいのでしょうか。

親と同居している場合は、このように少しずつ変化が表れてくるので、比較的早く認知症に気づいて様々な手立てを打ちやすいのですが、同居していない場合は日々の変化が見えにくく、気づいた時にはかなり認知症が進んでしまっていたということがあります。声掛けを考える前に、まず認知症とは何かを理解しておきましょう。

薬イメージ

2.認知症とは?

そもそも「認知症」とは、特有の症状や状態を表す言葉で、病気ではありません。軽度の認知障害まで含めると日本は約800万人の認知症患者がいるとされています。総務省統計では65歳以上の人口は3621万人(2020年11月現在)と発表されていますので、65歳以上の22%(4.5人に1人)が何らかの認知症症状があると考えられます。

認知症には100種を越える原因疾患があり、全体の約7割を占めるのが「アルツハイマー型認知症」と言われています。特に女性はアルツハイマー型認知症が多く、抑うつ、意欲低下、怒りやすくなるなどの症状や、最近のことを忘れる、判断力が低下する、認知症であることを認めないなど、記憶障害や判断力の低下が多く表れるようです。全体の約2割を占めるのが「脳血管性認知症」で、転びやすくなったり、手が震えたり、動きが緩慢になったりする「パーキンソン病」が同時に現れることも多く、男性に多い傾向があります。

3.親が感じている世界

認知症になった親が感じている世界とはどのようなものなのでしょうか。
症状をイメージで例えると、認知症は長い年月をかけて知識や経験を「壺」にためてきたものが、少しずつ口の部分から欠けていき、記憶がこぼれていってしまうようなものと言われています。

壺は上(最近の記憶)から崩れはじめ、下(昔の記憶)は残り、大切に思っている本質的なものだけが最後まで残ります。ほとんどの方は幼少期の記憶は残るため、その当時の昔話をすると話は尽きません。女性の場合は子供や夫のことは忘れても、自分の母親のことは忘れず、男性の場合は子供のことは忘れても妻のことは忘れないそうです。そこが記憶の原点になっているのでしょう。

また、認知症が進んだ親が感じている世界は「リュック1つの世界」とも言われています。多くのものを持っていたはずなのに、次第に荷物は減ってリュック1つになり、その中には本人にとってとても大切なものだけが残っています。それが何なのかわかってあげられると、介護の声かけも変わってくるかもしれません。推測ですが、戦争経験者世代にとっては忘れがたい恐怖や不安が多く残っているはずです。危険が迫ってくることに怯えるような気持ちを抱えているかもしれません。

高齢者の方の手元イメージ

4.安心感を与える介護の声かけとは?

高齢者は、今までできていたことができなくなり、できることが次第に減ってくると不安を感じやすくなります。
高齢者に接する機会が多い介護や看護などの職業現場では、不安を取り除くために以下の3つがコミュニケーションで特に大切と言われています。

  1. 目を見て笑顔で話す
  2. 気持ちに寄り添って話す
  3. スキンシップを行って話す

これは家族や親子でも同じことで、介護のコミュニケーションの基本となるのがこの「安心感を与える」接し方になります。忙しい毎日の中で時間に追われて生活していると、どうしても言葉に頼りがちになりますが、言葉だけで接していないか、時に振り返ってみることが大切です。介護でなかなか話が通じない時や、頑なな態度で抵抗されてしまうような時は、こちらが理詰めになってしまっている場合があるかもしれません。しかも時間に追われてイライラした態度で接してしまうと、不安な気持ちを増長させてしまいます。大切なことを話したいときには、相手の手を握って目を見て笑顔で声かけするようにしましょう。

家族イメージ

5.気持ちに寄り添った介護の声かけ

親の介護で気持ちに寄り添って声かけするには、どうしたらよいのでしょう。
明確な答えはありませんが、親はこれまで積み上げてきた人生に自信があるので、「自尊心を傷つけない」ということが大切です。特に認知症の初期は「今までできていたことが次第にできなくなった」という不安を、親本人が1番感じています。たとえそれが介護上で「できないから手伝う」という親切であっても、親にとっては自尊心を傷つけられたと感じてしまうかもしれません。

親の介護で悩む事例を挙げながら考えてみましょう。

  • 日付や曜日を忘れてしまう
  • 薬の飲み忘れが目立つ
  • テレビのリモコンなど必要なものが見つけられない
  • ご飯を食べたのにご飯はまだかと聞く

つきっきりでサポートするわけにはいかないので、このような日常的に困ることは、いかに傷つけずに改善できるか声かけにも悩むところです。つい「薬飲むのをまた忘れたの?」と繰り返して言ってしまいそうですが、それでは親の自尊心を傷つけてしまいます。

A子さんは薬を日別に小袋に入れてカレンダーに貼り、毎朝読み上げて声をかけるそうです。「今日は15日金曜日だね。今日の薬を飲んだらお散歩をかねて買い物に行きましょう」と声かけすることで、自然に日付を理解して、薬も忘れにくくなったそうです。

B子さんは、親が欠かさず観ていたテレビ番組を観なくなったことが気になって「いつもの番組観ないの?」とたずねましたが、はっきりとした返答は得られませんでした。観察してみると前日の新聞を見ていて、しかもリモコンが見つけられない様子だと気づき、古い新聞のストックは茶の間に置かないように変えたそうです。常にその日の新聞とリモコンだけをテレビ前のトレイに置くようにしたら、新聞のテレビ欄を見て好きなテレビをつけて観るように戻ったそう。声かけというよりも、親が戸惑わないよう家族が習慣を変えたという例ですが、とても優しい気遣いです。

介護施設で行っている「食」に関する声かけ例では、食事が終わった後にすぐ「ごはんはまだ?」と聞く方には、「今準備していますよ。今日のメニューは何でしょうね」と応えるそうです。家族だとつい「さっき食べたでしょ」と言ってしまいそうですが、空腹だから聞いているのではなく、「不安だから聞いている」ということがわかれば、気持ちに寄り添った声かけができるわけです。

6.主体性を持たせる介護の声かけ

ある介護現場で行われた実験で興味深い結果がありました。
介護レベルが同程度の入所者を2つのグループに分け、ひとつのグループには「身の回りは自分で管理しましょうね」と声かけし、もうひとつのグループには「全てスタッフがお世話するので何もしなくていいですよ」と声かけをしたそうです。実際には全く同じ介護サポートを行っていたのですが、入所者の幸福度、健康度には歴然とした差が出たそうです。
このように自己意欲を奪わない、主体性を持たせる声かけはとても大切です。

同じく介護施設で、食の細い入所者に対する声かけ例をお聞きしました。
なかなか食事が進まない方に介護者が「この食事は私が作ったのですが味見してもらえませんか?」と声かけすると、どのおかずも少しずつ食べてくれたそうです。
「食べなきゃだめでしょ」という一方的に押し付ける声かけではなく、「手伝ってもらえないか」というお願いに変えると、「役に立ちたい」という気持ちから食べてくれるようになったわけです。
こちらの都合で話すのではなく、主体性を持ってもらえるような声かけが理想的です。

また、介護現場ではスピーチロック(言葉の拘束)をしないようにする取り組みが行われています。「スピーチロック」とは、声かけによって身体・精神的な行動を抑制することであり、「ちょっと待って」「〇〇しないで」ときつく言ったりすることがそれに当たります。介護職の方が利用者に対して丁寧な声掛けをするように謳われている目標ではありますが、相手を尊重し、介護にあたるという面では家庭でも応用できますね。
例えば、「ちょっと待って」を「今は〇〇しているので、後5分待ってもらえますか?」などと言い換えることで、相手を拘束せず伝えることができます。余裕のない中だと難しく感じられるかもしれませんが、職場や仲間の間でも常に言い換えるように心がけ、癖づけてみてはいかがでしょうか。

7.明るくなる話題で介護の声かけ

同じ話を何度も繰り返す。このような症状にはどう対応するとよいでしょうか。
高齢になるにつれて認知症の症状ではなくても、昔の話など同じ話を繰り返すようになります。初めて聞いたように同調してうなずいてあげられれば良いのですが、数回ならまだしも、毎日何度も同じ話を聞く家族は辛いものがあります。つい「さっきもその話聞いたわよ」と言いたくなってしまいますが、生活に変化がないと、どうしても単調になり、同じ話になってしまいがちです。母娘の場合は、女性同士で楽しめる共通のものをみつけてみるのも一考です。

おしゃれイメージ

例えば、お芝居や音楽好きな親の場合、特定の俳優や歌手を一緒に応援するのは話がはずみます。
「〇〇さんが今日TVに出るから一緒に応援しましょう。6時の番組だからそれまでに着替えをしてゆっくりTVを観られるように準備しましょうか」と介護でも声かけしてみてはどうでしょうか。

また、身だしなみに気を遣う親の場合は、ちょっとしたおしゃれや、ネイルなどを使ってみるのも効果的です。「今日はヘアカットの日だからちょっとネイルつけてみない?どの色が好き?お母さんが好きな色を私がつけてあげるわ」と声かけすると喜ばれるはずです。
ネイルカラーは淡いピンクやオレンジなど明るい色を選ぶと、視覚的にもプラスの効果が期待できます。
スカーフなど顔周りを明るくするおしゃれも効果的です。

まとめ

ここまで認知症の親に対する効果的な声かけや、介護のコミュニケーションについて紹介しました。
介護には明確な正解は存在しないので、悩むことは多いでしょう。介護レベルや親子の関係性によっても状況は異なるので、当てはまらない例もあったかもしれません。時には地域包括センターや介護施設の介護職員などの専門家を頼って、相談してみるのも一つの方法です。
Webで調べて少しでも良い声かけをしようと思われていること自体が素晴らしいことですから、これからも無理をせず、あなたらしい声かけで接してあげて下さい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考:
「高齢者における」選択のパラドックスの実情
第8回大会せたがや福祉区民学会 「つなごう、そして育もう」〜世代を超えてつながろうーせたがや福祉の実践〜報告集

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